チンパン草

正気を失った人間の抱く幻想くらい美しいものは、この現実世界のどこにも存在しない

 僕が言葉を加えることで却って陳腐になってしまうことは承知の上で。

 先日、親しい友達とスカイプで話をしていて、年末年始に心を捉えられたものに共通のものがあった。それは箱根駅伝ではなく、箱根駅伝には勿論心を動かされたが、それ以上に、箱根駅伝の放送の合間に流れたCMだった。

 僕がCMを聞きながら、慌ててメモしたノートには、「正気を失った人間の幻想ほど美しいものはこの世界に存在しない」とある。彼はその言葉を調べて正確に知っていた。彼もその言葉に心を捉えられたらしい。その言葉に惹かれた彼は、その言葉が抜粋された、村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』というまどろっこしいタイトルの本を手に入れるために、ネット注文したらしかった。既に僕の家の本棚にはその本があった。
 この言葉が書いてある箇所を見つけ出し、その前後を彼に聞こえるように声に出して読み上げる。だいぶ抜粋してCMでは使われていた。

 CMでの言葉を全文正確に知りたくて、調べてみると、すぐに見つかった。サッポロビールのCMだったことを憶えていたから。

 執筆 村上春樹
 監督 是枝裕和
 語り 仲間由紀恵
 音楽 明星/Akeboshi

 箱根駅伝の放送の合間に流れた4つのCMの他にも、web限定のスペシャルムービーもあった。
 僕が1月に入ってから、最も繰り返しよく聴いているのは音楽ではなく、このmovieであり、語りである。
 2012年の1月末までの限定公開である。勿体無い。DVDが出たら欲しいくらいである。
http://www.sapporobeer.jp/kanpaispecial/sp.html


「痛みは避けられない。でも苦しみは自分次第だ」、あるときそんな言葉を覚えた。

そして長距離レースを走るたびに、頭の中でその文句を繰り返すようになった。

きついのは当たり前。

でも、それをどんな風に苦しむかは、自分で選びとれる。

サファリング・イズ・オプショナル。

へこたれるもへこたれないも、こちら次第。

苦しいというのはつまり、僕らがオプションを手にしているということなんだ。

 

僕やあなたのような普通のランナーにとって、レースで勝ったか負けたか、

そんなのは大した問題じゃない。

自分の掲げた基準をクリアできたかどうか、それが何よりも重要になる。

判断はあなた自身に委ねられている。

自分の中でしか納得できないものごとのために、

他人にはうまく説明できないものごとのために、

長い時間性をとってしか表せないものごとのために、

僕はひたすら走り、またこうして小説を書く。

 

やっとゴールのマラトン村にたどり着く。

炎天下の42キロを走り終えた達成感なんて、どこにもない。

頭にあるのは「ああ、もうこれ以上走らなくてもいいんだ」ということだけ。

村のカフェで一息つき、冷えたビールを心ゆくまで飲む。

ビールはもちろんうまい。

でも、僕が走りながら切々と想像していたビールほどうまくはない。

正気を失った人間の抱く幻想くらい美しいものは、この現実世界のどこにも存在しない。

 

走っているときに頭に浮かぶ考えは、空の雲に似ている。

いろんな形の、いろんな大きさの雲。それらはやってきては、去っていく。

でも空はあくまで空のままだ。雲はただの客人に過ぎない。

通り過ぎ、消えていくものだ。

暑い日には暑さについて考える。寒い日には寒さについて考える。

つらいことがあった日には、いつもより少し長く、少しきつく、一周余分に走ることにしている。

そしてあとにただ、空だけを残す。



 僕が言葉を加えることで却って陳腐になってしまうことは承知の上で。
 苦しいというのはつまり、僕らがオプションを手にしているということなんだ。
 正気を失った人間の抱く幻想くらい美しいものは、この現実世界のどこにも存在しない。
 この2文が最も好きである。
 最後の段落の、暑い日には暑さについて考える。寒い日には寒さについて考える。というところを読むと、自然と宮沢賢治の、
 雨にもまけず 風にもまけず 雪にも夏の暑さにもまけぬ
 で始まる詩を思い出してしまう。読後感も似ている。

 友人は、僕が挙げたところも勿論いいが、最後の、
 つらいことがあった日には、いつもより少し長く、少しきつく、一周余分に走ることにしている。
 そしてあとにただ、空だけを残す。
 のところを、自分も同じことをするらしく、「春樹さん、分かるよー」言うてた。きつくて、きつさだけになって、つらいことを忘れ、頭が空っぽになって、ただ空だけが残る。

 空を、「ソラ」とも「カラ」とも読むのはただの偶然ではないのかもしれない。


 そしてあとにただ、空だけを残す。

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フェルメールからのラブレター展

 渋谷でフェルメールからのラブレター展をやっている。
 情熱大陸の林綾野さんの回はよかった。気になる。観たい。

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金は天下の回り物 時間は

金は天下の回り物

時間は天からの恵み物

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今日一日を生きる

 吉田兼好は徒然草の中で、死というものはいつやってくるか分からない、人間にとって一番の幸せとは、財産でも名声でも地位でもなく、死の免れがたいことを自覚しつつ、愉しみながら濃密で充実した「いま」を生きることだと言っています。この人生哲学に私も全く同感です。

 細川 護熙

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休日の朝にビールを飲みながら掃除すること

 休日の朝にビールを飲みながら掃除することの自由さと不自由さのせめぎ合い

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日曜日よりの使者

 様々な出会いがあった大学の1、2年生だった頃、時々こんな質問をされることがあった。
「どんな子が好きなの?」
 あの頃は、この質問にいつも決まって、この歌みたいな子って答えていた。

http://www.youtube.com/watch?v=9OJ3kaba8LU

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